タイムマシンにお願い
俺の場合は音楽がそうなんだけど。
人間は誰しも自分だけのタイムマシンを持っている。
思い出と強く結びついているもの。
使い慣れた道具に触る時。
キンモクセイの匂いを嗅ぐ時。
:Reの文字を見た時。
俺の耳はイヤホンで塞がっていた時間のほうが長い。
ポルノグラフィティのTHUMPχを聴くと雨天に自室のベッドで仰向けになっていた中学時代にひとっとびできる。
マキシマム ザ ホルモンのブラック¥パワーGメンスパイを聴けば高校3年の下校後に溜まっていたマックに。
ミドリ、the telephones、サンボマスターを聴けば初めてライブハウスに足を踏み入れたあの日に行ける。
なんでそんな事を思ったかというと、今日サブスク解禁されたハチの曲を聴いていたからだ。
俺は米津玄師が大好きで、その世界観や音楽の坩堝にのめり込んできた。
2ndが出た時に聴きはじめたので、1stと共にその時代の曲がより特別なものになっている。
(当然今の曲も素晴らしい。)
思えば今までハチの楽曲に手が出なかったのは、知り尽くしてしまうのが怖かったからだ。
俺はRPGのラスボス手前のセーブポイントでげーむをやめてしまうような人間で、その世界が終わってしまう事に対し悲哀と恐怖を感じる。
ハチを聴いたら、いよいよあの頃の彼の全てを知ってしまう。それが怖かった。
新アルバムと同時に解禁されたこのタイミングじゃなければ、もしかしたらずっと聴けなかったかもしれない。
至極当たり前の話だし、何に感動してるんだ?と思われるだろうがハチを聴いたらあの時の米津がいた。曲の雰囲気や展開、ギターのリフ。あの時の初期衝動に包まれた米津がいたのだ。
もう会えない家族や友達からの手紙を見つけたような、そんな心境でいる。
ハチの曲はほぼ知らないのに、その時代の匂いを感じる。就活して新社会人になろうともがいていたあの時に戻ることができる。
俺はまた新たなタイムマシンを手に入れた。